部活入ろうかなぁ〜って気まぐれに思った。だけど泥門ってチア部ないよなぁ。だから王城行きたかったのに、と猛烈に後悔。 しょうがないか、ハプニングで入試受けられなかったんだし(落ちたよりマシかな?)





American football




「お前ってつくづく使えねェヤツだな、この糞チビ」

ギラギラと殺気をこめた鋭い視線で睨みつけてくる蛭魔妖一。小早川瀬那は、 ヒッと怯えて栗田良寛の後ろに逃げ込んだ。

「やっぱ主務より選手だな。しゃーねェな…もう一人くらい主務引っ張り込んどくか」
「無理矢理はやめようねヒル魔」

栗田は半ば諦めかけながらも、苦笑まじりにたしなめた。

「主務なら文化系の方から集めりゃ 充分だろ。とりあえず明日の試合までに仮でもいいから誰か連れてくぜ」
「…助っ人?」
「そーいうこった」

何だか自分のダメさ を今一度思い知らされたようで、瀬那は栗田の背後でガックリと項垂れた。

「テメーらはもう帰っていいぞ。糞デブはあとで罰ゲームの 内容について連絡入れるからな」
「う…うん」

『助っ人集めで一番少なかったヤツが罰ゲーム』。それを思い出したのか、栗田は 少々顔を引き攣らせながらおずおず頷いた。

「あれ、ヒル魔さんはまだ帰らないんですか?」

瀬那がきょとんと首をかしげると、 蛭魔はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、脅迫手帳をかざした。

「おう、主務を一人拾いに行くからな」





とはいったものの。





もう時計は最終下校時刻を指していて、文化系もとっくに帰宅してしまったらしい。校舎の中 は薄暗く、窓ガラスからは夕陽の赤い光が差し込んでくる。

「チッ――」

思わず舌打ち。やっぱりセナに任せるしかないか、と 諦め気味に溜め息をついたとき、蛭魔のご立派な耳にある音が飛び込んできた。

(…歌?)

こんな時間に…コーラス部か?いや、 これは合唱の歌い方じゃない――誰だ?蛭魔は不審に思いながら、声のするほうへと足を進めた。コツ、コツ、硬い足音が廊下に響く。

1年2組――小早川瀬那と同じクラス。

歌声はここから聞こえてくる。蛭魔はそっとドアの隙間から中を覗き込み、僅かに目を見開いた。

茶色い髪がサラッと肩まで流れ、緑色のセーターと赤いリボン、そして黒緑のスカート、耳にはキラキラと金のピアスが光っている。

彼女は窓際の机に座り、窓の向こうを見つめて歌っていた。

か――)

先日、一年のクセに生意気だと自分が腹を 立てていた女子だ。実物を目撃するのは初めてだが、『ケンカが強い』という噂から想像していたよりも肩幅が狭く小柄だ。しかし、こんなにも歌 が上手いとは――。


「なに立ち聞きしてんスか、ヒル魔先輩!」


ピタリ、と突然歌が止み、の声が紛れもなく 自分の方へと飛んで来た。気付いていたのか、と蛭魔は内心少々驚きつつも、それでも顔に出さないようにしながら、ニヤリと笑う。

「あと十分で下校時刻だぞ。帰宅部のガキがこんなとこで何やってんだか見に来たんだよ」
「ウソつけ」

真っ赤な夕日を浴びながら、 はこちらを振り返った――水色の目がキラキラと光っていて、薄くメイクしている彼女の口の端は、蛭魔と同じように大袈裟に吊りあがり、 悪魔そっくりの微笑みを浮かべている。

「あたしのクラスの小早川瀬那――あんたの部活の主務なんですってね」
「………まぁ」

主務兼選手だけどな、と心の中で密かに付け足す。

「で、小早川が役に立たないから、誰か主務の補佐を探しにきた、と」
「………おっしゃる通り」

鋭い勘――それがまた癪に障って、蛭魔は僅かに顔をゆがめた。夕陽の中のは、茶色い巻き毛を揺ら しながら悪魔のようなオーラを取り巻いて笑っている。

「だけど、みんな帰っちゃってなかなか掴まらないってか?」
「ほーう、 よーくわかってんじゃねェか」

ピンときた。こいつをなんとかして明日の大会へ連れて行って、雑用を押し付けてやろう。もしケンカに なるようなことがあっても、激しい身長差からしてなんだか勝てそうな気がする。

「――状況がわかってんなら話は早ェ…おい糞悪魔、 明日の大会に来い」

蛭魔はさらに笑みを深くし、偶然手にしていた(いつも持ってるが)銃をジャキッと構えた。にっこりと微笑むは 只今武器なしの丸腰状態。
がケンカに持ち込んだとしても、これなら勝てるかもしれな






「いいけど」






「………はぁ?」



なんかあっさり承諾しちゃった。

蛭魔は一瞬脱力して、思わず銃を取り こぼしそうになった。なんだか見た感じから頑固そうで、なかなか苦戦するだろうと思っていた矢先、何だこのあっけなさ。

(――つーかコイツ突然明日とか言われて予定ないのか?)

休日を一緒に楽しむ友達とかいないのだろうか?

「いやーちょうど 明日ヒマだしどーしよっかなーって思ってたとこなんスよねー。れ?なに呆然としてるんスか、ヒル魔先輩?」
「あぁ?別に――まー下手に 抵抗されるよかマシだな…。荷物は一切いらねェ、泥門前駅で待ち合わせだ」

遅れるなよ糞悪魔、と悪口のおまけつきで付け足すと、 は「ほいほーい」と手を上げてヘラヘラ返事した。なんだかその様子がかーなり頼りない。(一番遅刻しそうだ)

「何時集合スか?」

のほとんど面倒くさそうな問いかけに、蛭魔は一瞬答えかけてからすぐに口を閉ざした。

(――遅刻されちゃ色々困るな…。 ちょっと騙しとくか)

「…?おーい、ヒル魔先輩?」

なかなか返事が返ってこないので不審に思ったのか、がコテンと首を かしげて顔を覗きこんできた――なんだか物凄く頼りない。ホントにコイツが噂の『』だろうか?


「――十時半」


深ーく考え込んでから答えたその待ち合わせ時刻は、他の部員や助っ人達よりも三十分も早い時刻だった。



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