イエーイ、寝坊したぜ!あくびをかみ殺しながら体を起こしたのは、なんと十時四十分。ま、どーせホントの待ち合わせ時刻は十一時なんだけどね。 ん?何で知ってるかって?いやー企業秘密企業秘密(ニヤリ)





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な…何も言われなかったから手ぶらで来ちゃったけど、怒られたりしないかな…?小早川瀬那は朝っぱらから少し不安を抱きながら、道を早足で 歩いていた。一応私服は遠慮して、制服姿。だって学校での行事だし…。


「………ん?」


不意に、何か温かいものが肩 に触れて、瀬那は思わず首をかしげた。何だろう…人の手?不審に思って少しだけ首を振り返らせてみると、なんと一人の少女が瀬那の肩に手を 回しているじゃないか。

「わーっ!?」
「シーッ!!」

瀬那がびっくりして飛び上がると、少女は人差し指を立てて唇に当 て、黙るように命じた。瀬那が急いで口をバチンと両手で覆うと、少女が「よし」と小さく呟いて頷いた。

「ごめんね、小早川。追われ てんだ――後ろ振り向くなよ」
「は、はい――」

おずおずと頷き、そして瀬那は少女に肩を引き寄せられながら縮こまるようにして 歩いた。確かに、後ろから数人分の足音が後をつけて来ているような気がする。

そんな瀬那の肩に手を回しているのは、多分同じクラス のだ。

『泥門第二の悪魔』と称された彼女にそう指図されれば、瀬那でなくとも誰だって素直に従わなければ恐ろしい目に遭う だろう。蛭魔妖一に続いてにまで――つくづく、僕って運がないな…。

「――ぅおっと!」

十字路に差し掛かったとき、 は瀬那の肩を引っ張ってレンガ製の壁から飛びのいた。何事かと思った矢先、角から飛び出すように出てきたのは黒い制服のゴツい男たち。


「あーっ!いたぞ!こんなところにいた!!泥門のチビと一緒に歩いてやがる!」


中でも一番サイズのデカイ奴がそう 叫んだ。

「ヒィィィッ…!!」
「あちゃー…ごめんね、小早川」

怯えて震え上がる瀬那に向かって、は「やっちまった」 と軽い失敗でもしたかのように僅かに顔をゆがめた。それからパッと瀬那の肩を解放すると、今度は左手で瀬那の手をギュッと掴んだ。

「いち、に、さん、で走るよ。わかった?」
「う、うん――」

瀬那がおずおずと頷く。それを見るが早いか、はザッと右足を右 に滑り出させて低く構えた。


いち!


ヒュッと空気を切る音がして、男が拳を飛ばしてくる。それを見事に 避けながら、は高らかに声を上げた。


にーい!


今度は男の腹に蹴りをかまし、痛みに呻きながら体を折 ったその背中に肘鉄を食らわせる。そして彼の後ろで構えていた男たちにキツイ睨みをぶつけたかと思えば、次の瞬間には全員が地面に倒れこんで いた。

(えっ!?今……)

何をしたのか、瀬那には全く見えなかった。文字通り目にも留まらぬ速さで、四、五人もの男をいっぺ んに片付けてしまったなんて――。



さん!!



瀬那が恐れをなして硬直していると、が左手を 強引に引っ張って駆け出した。瀬那は一瞬前につんのめりそうになったが、何とか持ちこたえると慌てて彼女のスピードに合わせて走り始めた。

ちょうどその直後、今まで二人がいたところへ十数人もの男が飛び出してきた。危機一髪、ギリギリセーフ!

「マジごめんね! 巻き込んじゃって!いやー、多分あたしにケンカ負けした奴の手下だろうな」
「ケ、ケンカ…!?」

瀬那はゾッとしての方に顔 を向けた――彼女は薄いメイクの向こうで、まるで悪魔のようなオーラを取り巻いた笑顔を浮かべている。

(なんか……ヒル魔さんに似て る――怖い!)

瀬那がぶるっと身震いした時、前方からまたしても物凄い形相の男たちが躍り出て来た。

「ヒィッ!!!」
「あららー。先回りされちゃったかなー?」

右手を目の上に当てて、辺りを見回すポーズをとる。しかし、は戦闘態勢に入る気 配を見せない。
ひょっとして、このまま突っ込んだりしないだろうかとかなりの不安に陥った時、空から何か黄色くて大きいものが男たちに襲い かかった。

「に゛ゃーッ!!」

一匹の虎猫が、鋭い爪で男たちをなぎ倒している。

「ナイス、アンナ!!」

は走りながら右手でガッツポーズを取った。『アンナ』と呼ばれた虎猫は、完全に気を失ってヒクヒクしている男たちをじゅうたんにして、 二人の後からついてくる。

「……!!!??」

わけが分からずただ驚くだけしかできない瀬那。はケラケラと苦笑した。

「あたしのペット!『闇菜』ちゃん。大丈夫、あたしが命じた奴にしか攻撃しないから」
「にゃーん♪」

さっきの気迫は何処へや ら、二人とも「ねー!」と同調するように、可愛らしく微笑みあっている。

(なぜか早くも大分慣れてきた…)

そう感じるのは、 この少女と猫が、瀬那が主務を努めるアメフト部の部長とその犬に似ているからだろうか?
だとしたら、そんなオーラに慣れかけている自分が とても恐ろしい。

「おーし!もう追って来ないかな?あっ、ちょうど駅に着いたぜ」

二人は『泥門前駅』の看板が見え始めた所で 急ブレーキをかけ、盛大な砂埃を立てながら止まった。道行く人々が驚いて目を丸くしている。そんな中、駅の方から聞きなれた声が飛んで来た。

「オス」
「あ、ども」

陸上部、石丸哲生。瀬那が頑張って集めた、今日の試合の助っ人だ。

「あれ、君は?」

石丸の視線が瀬那からの方へ移り変わった。はまだ瀬那の左手を握っていて、ニコニコ笑いながら会釈なんかしている。瀬那は慌てて 手を放し、を示して紹介しようと口を開いた。

「えーと、なんかひょんなことで道で出会った――」
主務でーす!」





え?





瀬那を含め、その場にいた全員が自分の耳を疑った。

「ご、ごめん――今、なんて言った?」
「ん?だから『主務のでーす』って――」

石丸が聞き返すと、はキョトンと した状態で先ほどの言葉を繰り替えした。しかし、全員まだその言葉をよく理解できていない。

そりゃあそうだ。

突然猛スピー ドで登場した少女が泥門第二の悪魔『』で、その上アメフト部の主務だなんて。




ええぇぇぇ ええええええぇぇぇええ!?




とりあえずみんな絶叫しといた。



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