「ここがクロフォード町・・・・・・」

おのぼりさんみたいに口をあけて、おのぼりさんみたいにぽかんとして。そして、大きな城を見上げながら、おのぼりさんのようには 呟いた。見上げる先には、大きな城をグルリと取り囲むように、木造の家々が並んでいる。

「行くぞ」
「え、えぇ」

神田のぶっきらぼうな言葉に慌てて頷き、はラビと神田の後に続いた。

「妙だな、この町・・・・・・」

神田がポソリと呟き、はぽかんと首をかしげて神田の隣に並び出た。チラリと彼の横顔を盗み見てみると、神田はしかめっ面な上、 やけに注意深く周りを見渡している。


「後ろから妙に殺気を感じる」
「アクマか?」


ラビが聞き返した。 がそっと視線を後ろにやってみると、ちょうど数人の町民と視線がかち合った。見られてた・・・?は少し怯えながら、 ぶるっと身震いした。言われて見れば、向けられている視線が多い気がする。

「さぁな」

神田は無愛想にラビの言葉に答えた。


小さな町


三人はまず、資料の地図に書かれている通り、 町の中心部にあるというセシリー姫の霊廟へと向かうことにした。ティナシャロンに地図をスキャンさせると、ティナは早速目的地へ向かって まっすぐ羽ばたきだした。

「道に迷わないためのゴーレム」

がティナシャロンを指差してラビに言うと、 ラビは好奇心の目でティナを見つめた。

「これで絶対迷わないはずよ。ティナが目的地まで案内してくれるから・・・・・・」

ところが、地図の通りに進んでも、目的地には辿り着けなかった。町の中心部にあるのは、巨大な城だけ。 他に霊廟らしきものは見当たらず、三人は途方にくれて互いに顔を見合わせた。

「どういうことだ?」

神田が眉根を寄せた。

「これ・・・・・・資料が間違ってるのかしら?」

は地図を食い入るように見つめて呟いた。 残念ながら、方向音痴なわたしに地図は読めないけれど、道を間違ってるとしたらティナシャロンが知らせてくれるはずだ。

「まあとりあえず、聞き込み調査といくか?」

ラビが尋ねてきて、はキュッと眉間にしわを寄せた―――目的地が存在しない からと言って、ここで立ち止まっていても仕方がない。聞き込み調査でもして、少しでも手がかりを集めなければ。

「そうね」

は頷いて、先頭を切って歩き出した。



「すいませーん」


はドアをノックしながら、 弱々しい声を投げかけた。こんな頼りない声で、誰か使用人にでも気付いてもらえるかと一同は不安に思ったが、意外にもノックの音は良く 響いていたようで、少ししてから巨大な扉がギシギシ軋ませながら開かれた。

「どちら様でございましょう?」

出てきたのは、 口髭をはやした、金髪の執事だった。胸をピンと張り、身長はゆうに180を超えているだろう長身の男。何だか厳しそうで怖いイメージがある。

「えーっと、その・・・わたし達――」
「『黒の教団』の者だ―――少し聞きたいことがある」

が大男の登場に怯えてモゴモゴ言っていると、神田が堪えかねて言葉を引き継いだ。

「この城、 いつからここにあるんだ?」
「――町ができた時からです」

執事は眉をピクリと吊り上げながら答えた。何だか不愉快そうに顔を 歪めながら神田を見下ろしている。

「町ができたときから?だって、『町の中心部にはセシリー姫の霊廟が』って書いてあるわ・・・ その、貰った資料に――」

言いながら、執事の鋭い視線が降って来たので、はビクビクしながら文末をにごらせた。

「ならそれは間違っているのでは?セシリー様は死んでなんかいませんからね」

執事はピシャリと言って、 ラビの手にしている資料に視線を滑らせた。ちょうどラビが開いていたページには、ミイラ化したセシリー姫の挿絵が載っていたので、 神田が慌てて乱暴に手を突き出し、冊子を閉じた。

「死んでない?」 ラビがオウム返しに聞き返した。 「そんなバカな。 間違ってるなんてこと有り得ないさ」
「じゃ、じゃあ、そのセシリーさんが生まれる前に、えーと、つまり、過去に、 同じ名前のお姫さまっていたの?」
「いいえ!!わたくし、執事になるためにクロフォード家の姫様の名前を全て暗記いたしましたから。 一代目がマリア様、二代目がアリー様――」

があまりにも未練がましく尋ねるので、執事はイライラ口調でマシンガントークを 繰り広げた。

「えぇ、それならいいのよ。こっちのミスも有り得るかもしれないから・・・」

は遮るように執事の声の上から言葉を重ねたが、執事は一向に口を閉じようとしなかった。

「三代目がアマンダ様に、 次がアリス様・・・」
「えぇ、だから、こっちのミスってことも有り得るかもしれないし――」

はもう一度強く繰り返したが、 執事は無視して喋り続けた。指を折り、代数を数えながら、これはもう完全に知識をひけらかすタイプの人間だろうとは確信した。

「ビクトリア様、クリス様、イヴ様そしてマリー様・・・」
 あ り が と う ! ! 

ついに我慢できなくなって、は腹の底から怒鳴り声を張り上げた。執事は突然の怒声に驚いて押し黙り、 神田とラビはが怒鳴ったことに対して大袈裟に驚いて見せた。

「あ、ごめんなさい・・・その、び、吃驚・・・させちゃった?」
「――うん、色んな意味で」

が恐る恐る尋ねると、執事ではなく、ラビがおずおずと頷いた。

それにしても、 奇妙だ。

資料が間違っているなんてことが有り得るだろうか?一応、エクソシストが派遣される前に、下見としてファインダーが ここへ来ているはずだ。それに、嘘だらけの任務だなんて、教団がそんな手間をかけるようなことを教団がするはずがない。

「とりあえず」

は声を張り上げ、話題を元に戻そうとした。

「今日はもう遅いから帰るけど・・・そうね、 明日また来―――」

―――ると思う。の言葉はそこまで続かなかった。


 キ ャ ー ッ ! ! 


甲高い悲鳴が城内から響いてきたかと思えば、 突然執事の体が宙を舞い、ラビがその下敷きになってしまった。が目を丸くして立ちすくんでいると、金色の何かが神田に向かって まっすぐと飛んできた。

「わあ!あなたが『エクソシスト』!?」

眩しいくらいの美少女だった。金色の髪を揺らし、 神田の首に手を回し、水色の瞳をキラキラと輝かせ。そして、白いドレスがヒラヒラとなびいている。

「ちょっ、ちょっと!」

はしばらくその場に硬直していたが、やがて考えるよりも早く声を張り上げた。少女は驚いてこちらを振り返り、困り果てたような 神田の顔が少女越しに見えてきた。

「あら、あなた誰?って、うわ、ダッサー!今時赤毛!?」
「そ、それはこっちのセリフよ!」

少女のゴミでも見るような目つきに腹を立て、は珍しくカンカンになって怒鳴った。赤毛をバカにされたのは久しぶり。 何だか傷口を突かれたような気分だった。

「あなたこそ!その・・・・・・えーと、そのドレスどうにかした・・・ら?」

ああ、途中で怯んだりするからせっかくの嫌味にも迫力がなくなってしまった。女の子が形の整った眉毛を片方だけ吊り上げて、 はビクッと肩を揺らした。

「ち、違うわ、そうじゃない!だから、そのー・・・神田くんから離れてって・・・言おうと 思って――」

―――ん?

「だから、神田くんから早く離れて・・・」

―――わたし、何で怒ってるの?

ワケがわからなくなって、が頭を抱えて唸っていると、少女はそれを見て突然ニヤニヤし始めた。

「ははーん! わかったわ、貴女―――」
 離 れ ろ ! 

彼女が何を言おうとしていたのかわからなかったが、なぜかその続きを聞きたくなくて、は神田と彼女の間の隙間に向かって 人差し指を向けて遮るように声を張り上げた。金色の光が弾けるように広がって、少女がパッと神田から離れた。

「ごめん。 わたし、ただ、その――早く任務を終わらせたいだけだから」

はモゴモゴ嘘をついて、少女から視線をそらし、顔を伏せた。



***



たちは城へ招き入れられ、執事の案内のもと大広間へと向かった。 城の中は金の装飾が施してあって、すごくゴージャス。廊下の端ではメイド達がにこやかに微笑み頭を下げてくれる。

「すっごいさー、 なあ、・・・」

ラビが興奮して、振り向きざまに話しかけた。

ぽわー・・・

「え?なあに、ラビ?」
「その・・・何でもないさ」

が花を飛ばしていたので、ラビは思わず赤面して黙り込んだ。

ぽわんぽわーん・・・

「ユウ・・・」
「あ?なんだニンジン」
「・・・いや、幸せそうだな」
「・・・・・・・・・・・・」

神田もラビも、黙りこくっての前を進んだ。心なしか、頬に少し赤みが差している。は何て純粋なんだろう!
そう思った矢先―――。

「このお城売り払ったらどれくらいの価値つくのかしら・・・?」

「「・・・・・・・・・・・・」」

突然背後から流れてきた黒いオーラに驚いて、二人は冷や汗をかきながら唾をゴクリと飲み込んだ。



「旅の方々・・・ここが大広間でございます」

執事が足を止め、巨大な扉の向こうを指差した。神田とラビの足が同時に止まり、 はその後ろから背伸びして大広間を覗き込んでみた。

「う・・・うわ・・・」

思わず奇妙な声が出た。

大広間の中は金色にキラキラ輝いていて、長いテーブルに銀食器やら金食器やらが並べられている。赤いじゅうたんが敷かれていて、 ゴージャスや豪華という言葉を通り越してしまっている。

「セシリー様、どうぞお席にお着きください」

執事が頭を少女に下げた。少女はヒラヒラの白いドレスを手で掴んで走り出し、一番奥のいわゆる『お誕生日席』に真っ先に腰掛





っ て 。





「 「 「 セ シ リ ー ! ? 」 」 」


有り得ないと言わんばかりに目を見開いて、 三人は声をそろえた。









(ヒロイン腹黒伝説浮上?)