―――憎イ憎イ憎イ。ドウシテ私ガコンナ目ニ遭ワナケレバナラナイノ?

気味悪いんだよあ んたみたいな女!

―――ドウシテオ母サンハ私ヲ気味悪ガルノ?

こんな島 、消えてしまえばいいのに……



――― 死 で も な ん で も え え 。 早 く あ た  し を 解 放 し て よ ―――



ことの結果



………?」
「………お兄ちゃん、」


ポタリ、と傷口から血が滴った。ふらつく足が独りでに動き、地面の誇りっぽい砂 が僅かな砂煙を上げる。間近に迫ってきたその姿が、の胸をぎゅっと締め付けた。共に溢れ出す懐かしさ。間違いない、本物だ。


本物の兄だ。


!!」

がっちりした腕が乱暴にを抱き寄せた。はその腕の中で、未だ戸惑いに 揺れる緑色の瞳を、彼の方の向こうへ泳がせた。心を落ち着かせるような温もりが心地よい。自分と同じ肌の色が見える。家族のにおいがする。

「信じられない………てっきり……死んだかと………」
「……ヵ……!バカ…ッ……!それ…は……わたしのセリフよ……ッ!」

嗚咽を含んだ声がところどころで奇妙に跳ね上がった。瞳からこぼれおちた涙が兄の煤けた服を塗らした。同じところに刻まれた互いの血が、熱い。 生きている。生きていたんだ……兄も、わたしも………。




絶対、戻るよ




あの言葉が、甦る。





 界 蟲 一 元 ! ! 」 「 十 字 架 ノ 墓 ! ! 





ガッ!――イノセンスから攻撃が放たれる。六幻を振るう神田と、左腕を撃つアレンの狙う先には、小象ほどもある巨大な石像がズシ、 と地響きを轟かせながら二人の攻撃をその岩肌に呑み込んでいた。

恐らく、これから莉々亜を生け贄として縛りつけようとしていた、『御 神』の石像だろう――しかし、石像自体が動くだなんて任務内容には書いてはいなかった。アレンの左目も全く反応していない。

「チッ……っ たくどうなってやがんだ!?斬っても斬っても効かねェじゃねェか!」
「知りませんよそんなこと。でも確かに奇妙ですね――僕の左目にも何 も見えません。どうやら、アクマではないようですが……」

強烈な肘鉄を横っ飛びに避けて、アレンが考えにふけったくぐもった声を上げ た。ティムキャンピーが彼の白髪のてっぺんに必死にしがみついている。新たな攻撃が襲い掛かり、アレンがまた飛び跳ねると、ティムは危うく振 り落とされそうになった。

「松村家を根こそぎえぐり取ったのはコイツですかね……」
「やっぱりイノセンスが絡んでんのか?頑丈す ぎ――だッ!!」

言いながら神田が六幻で空を斬った。巨大な石像の首目掛けて飛び出した界蟲は、またもや岩肌に飲み込まれて消えた。

石像が腕とおぼしきものを振りかざし、威勢よく地面に叩きつける――と、地面がバリバリ言いながら地割れし、ジグザグの亀裂がアレン と神田の間を駆け抜けていき、二人は間一髪のところで、互いに距離を取るように飛びのいた。

また新たな攻撃をすんでのところでかわし ながら、アレンが息も絶え絶えに告げた。神田は再び六幻を振るう――が、硬い岩肌はやはり攻撃を丸呑みしてしまう。一向に砕け散る気配を見せ なかった。

「チッ、面倒だな……」

神田はちらりと夜の空を見上げた。さきほどから何処を目で辿っても、光の一筋も見当たらな い。最悪の事態が脳裏をよぎった。しかし、今はこの石像を破壊する方が優先だ――とはいえ、アレンや莉々亜が邪魔すぎる。


  お い モ ヤ シ ! ! ! 
 な ん で す か モ ズ ク 


ギラン!禍々しい殺気が噴出し、石像 までもがたじろいだ。

「テメェはそこのガキ連れて離れとけ。コイツは俺が始末する」

六幻を構えて石像を見据えたまま唸るよう に告げると、アレンが急に物静かになった。二人の傍らには、アレンのリュックに枕した、ボロボロの莉々亜が横たわっている――石像に貫かれた 腹の傷がひどく、さっきから全く意識がない。

「無理ですよ。下手に動かせば傷口が広がります」

アレンの冷徹な答えが返ってき た。今はそんな悠長なことを言っている場合ではないというのに。確かに傷口が開くのは大問題だが、ここに留まっても傷がさらに増えてしまう――神 田は忌々しく舌打ちした。

が戻ってくるまで――踏ん張りましょう。アクマでもなさそうですし、気を抜かなければなんとかな りますよ、これくらい!」

そういうが早いか、アレンは左手の銃口を再び前方に向けた。輝くような銃弾が炸裂する。神田の日本刀が空気 を切り裂く。さらに膨張した眩い攻撃を硬い岩肌に受けながら、石像はまたしてもその腕を振り上げた。





 呪 神  束 縛 ! ! ! 





ジャランッ――。


雲の狭間から黄金の光の鎖が垂れ下がり、振り上げた石像の 腕を器用にからめ取った。!!――神田とアレンが急ブレーキをかけ、そしてその鎖のあまりの眩さに思わず呻き、腕をかざして目を覆う。





 そ の 影 も ー ら い ッ ! ! 





新たに割り込んできたのは、紛れもないあの 男の声――アレンと神田がぎょっとして顔を上げると、彼らの目に、石像の大きな影に巨大な鎌を突き刺している、予想通りの人物が映った。

「えっ………!?」

呆然と立ち尽くす二人の目の前に、黒い影が二つ、スタッ、スタッ、と身軽に着地してきた。

「おらおら ぁー!こんなとこでヘバッてんじゃねェぞぉー、おい!!」
「もう、喧嘩売らないでよー!さっさとあの石像壊そうよ!!」

ガンを飛ば してくる男、そしてそれを手馴れた様子でとがめる。一体全体何がどうなってこんなことになっているんだ!?神田もアレンも脳が現状に ついていけず、その場の空気においてけぼりになった。

「えっえっ――えええっ!?――つーか、大丈夫なんですか!?その怪我 ッ――」
ッ、お前何敵手懐けてんだ!?」

ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てて詰め寄る二人。はいつもの如く縮こまり、弱 々しく苦笑を浮かべながら恍輝を構え直した。

――前方で、鎖を引きちぎる音がした。

「さーてよ!お前の実力とやらを 見せてもらおうか!」
「なーに言ってるのよ!とっくのとうに体験してらっしゃるでしょう!」

影の束縛が解け、石像が声にならない 雄たけびを上げて向かってくる。アレンと神田が身構えたが、の兄が左手を突き出してそれを制した――が先ほどやったのと、全 く同じように。


「おーらぁぁぁぁああっ!食らっとけッ、 常 闇 ノ 竜 巻 ! ! 


ブォッ!真っ黒い、 果てしなく深い闇色の竜巻が巻き起こり、落ち葉を巻き上げながら石像の首筋に突き刺さる――ドガッと鈍い音がして、石像の突進が妨げられた。 そしてが恍輝を握る。


「目覚めよ神剣 神の呪いよ」


――― イ ノ セ ン ス   第 二 開 放 !


髪が、瞳が、艶やかな黒に染まる。無色透明のイノセンスの原石がきらりと光り、そこに溢れ出した光が神々しい剣の銀の刃に素早く 流し込まれた。美しき神剣は、一瞬にして黄金の光を帯びた対アクマ武器『恍輝』へと姿を変える。


――― 光 磔 呪 殺 !  !


カッ!黄金に光り輝く巨大な十字架が、石像の胸前に浮かび上がる。は恍輝の切っ先を十字架に向け、念じた。




――― 壊 せ !




十字架が、勢いつけて石像の胸に張り付いた――それだけには留まらず、十字架は 深く岩肌に刻み込まれ、コケだらけの岩に、ついに巨大な亀裂が入った。割れ目から目の眩むような黄金の光が溢れ出す――。


――ガ ッ!!!
石像が内から砕け散った。




「…………な、なんて破壊力、」




アレンがポツリと取りこぼし た。神田も同じく呆気に取られている。ついこの間まで怖い怖いと自分の袖にしがみついていたあのからは、とても想像できない破壊力だ。 一体、何が彼女をここまで突き上げたというのだろう……?


「………………あっ、腰が抜けた」


直後に上がったドサッと いう音に、神田もアレンも「ああ、やっぱりか」と溜め息をついた。









(次回、ついに復讐士師記CROSS OVER!)