小さいころ、殺気みたいなものの予測ルートを感じ取れるようになった。それは色んな格闘技にも応用できて、当然、ケンカ実戦や観戦にも役立つ もの。たまに厄介だけど。





Don't touch him!




あたりが禍々しい殺気に包まれております。

通常、目を閉じると、暗闇の中を白い殺気が突っ切るように して予測できるんだけど、只今真っ白けです。これ多分、姉崎まもりと蛭魔のだろうなぁ…。

「今まで一年間、泥門高校でのあなたの蛮 行」

まもりが口を切ってしゃべりだした。

「言っても聞いてくれないから風紀委員でも諦めてた。でも今日だけは――」

キッ、と蛭魔を睨みあげる姉崎まもり。


 今 日 だ け は 私 が 許 さ な い ! ! 

みんなオロ オロ状態だった――蛭魔、姉崎、そしてを除いては。微妙な刺々しい空気が漂っている中、はあくびをかみ殺しながら事の成り行きを眺め ていた。

「ほ〜?許さないとどうなる?」

立ち上がり、自分の荷物の置かれているベンチに向かって歩き出す蛭魔。

「許さない――と…」

姉崎まもりは一瞬何か言いかけたが、すぐに言葉が見つからなくなり、やむおえず口をつぐんだ。蛭魔はバッグの中 から、そっと黒い手帳を取り出す――脅迫手帳を。

「部活停止処分の申請でもするか?」
「……そんなことはしない。今、大会中でし ょ?失格になっちゃうじゃない」

姉崎まもりがそっと視線を落とすと、蛭魔は驚いたように静止して、静かに手帳を手放した。

「とにかく!セナをいじめるのだけはやめて!もうセナに関わらないで!」

姉崎まもりは次いでそう叫ぶと、大急ぎで瀬那の手をとって 駆け出した。

「私がもっといいクラブ探してあげる!ほら行こ、セナ!」

まもりに無理矢理引っ張られて、瀬那は体制を崩しな ら連れて行かれてしまう――栗田がショックを受けて硬直したのが、の視界の端に映った。

(こりゃ……次で敗退だな、デビルバッ ツも)

は溜め息をつき、荷物をまとめ始めた――飽きた、そろそろ家に帰ろう。どうせ、小早川はあの女につれてかれちゃうんだか ら。



「……ごめん、僕、やっぱり残るよ」



ピタ、と思わずの手が止まった。

振り返ると、姉崎ま もりと瀬那の手は離れていて、瀬那は硬いアメフトボールを手にとっていた。

「続けたいんだ、アメフト部!」

パァッと栗田の 顔がほころぶ。おーおー、お熱い友情ですこと――その時のは、特に気にも留めずに軽々しくそう思った。

「でも…ここにいたら、 何されるかわからないじゃない!」

姉崎まもりはまだ引かない。と、そのとき、蛭魔が何かひらめいたらしい(わかりやすすぎるよあの 顔)。

「いやー、セナ君に仕事押し付けすぎた!そりゃミスもするね!」

ヒュンっとの前を飛ぶように走り、蛭魔が瀬那の 隣に並び出た。ちゃっかり肩に手を置いている――何か企んでるな(わかりやすすぎるよあの変わりよう)。

「主務とマネージャーの仕 事両方やってっからな〜。助っ人とは言えじゃあ、ちと頼りないし」


は?


「マネー ジャーさえいれば、セナ君の負担も減ってうまくいくんだがな〜」

キョトン、と立ち尽くす姉崎まもり。ピシ、と信じられないという表 情で立ち尽くす。先が読めずに立ち尽くす瀬那と栗田。アホの面々が勢ぞろいだ。

「マネージャー…?女子でもいいの?誰でも入れ るの?」
「モチのロンですよ、姉崎さん!」

蛭魔がニヤリと口端を吊り上げる。なんていうか気味悪い。…なんて言ったら、 またケンカになるだろうなぁ。


「じゃあ私が入る!!」
えーーーーーーーっ!?


姉崎まもりの発言にみ んなびっくりして絶叫した。もちろん、と蛭魔以外が。

姉崎まもりは「これで安心だよ、セナ!」とか言って瀬那の肩を揺さぶって るけど、当の瀬那は大慌てだ。栗田にいたっては涙を噴水のように流しながら大喜びしている。

「労働力ゲーット」

影で蛭魔が ケケケと笑っているなんて姉崎まもりは気づかない。

「美人マネージャーに美少女主務助……俺、入部しようかな」
「騙されるな。 相手はだぞ!」

血迷った佐竹に、山岡が冷水でもかけるようにささやいた。

「主務助…?あ、そういえば、主務の助っ 人って誰なの?」

佐竹の声が姉崎まもりの耳にも(一部が)届いたようで、彼女は今思い出したように声を上げた――ギクリ、 との肩が大きく揺れる。

(やばいっちゃー……)

は急いで彼女に背中を向け、コソコソヒッソリ隠れながら校門に向か いかけた。
しかし、事はそう都合よく運ぶまい。


「あー、それは多分さんのことだと…。ねえ、さん?」


駆け寄ってきてポン、と肩に手を乗せたのは小早川瀬那。己覚えておれ……その時、は憎しみに奥歯を食いしばったそうな。
姉 崎まもりの目が、ついにのほうを向く――。




「あ…!!」




小さくつぶやいたかと思うと、次の瞬 間姉崎はの目の前に飛び出していて、パンッ、と小気味いい音を立てての頬をひっぱたいた。

誰もが目を丸くする――蛭魔でさ えも。

「セナにさわらないで!」

怒鳴るように金切り声を上げた姉崎まもりを、はギロリと睨みつけた。



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