せっかく再会できたけど、別にうれしくない。つーか迷惑っていうか。むこうもきっと同じ気持ちなんだろうね。
誤解だけど、誤解するよう な人と仲良くできるわけがないだろう?





Killer




「ま……まもり姉ちゃん??」

瀬那は呆気にとられて、うまく呂律がまわっていない。みんな同じように驚いているようだった。

「まさか、あなたがこんなところにいるなんて…!!どういうつもり!?」
(それはこっちのセリフだっつーの)

は心の中で小 さく言葉をつき返したが、実際にはなにも言わなかったし、何か言うつもりもなかった。は殴られてかすかに腫れた頬を指で触れた。痛くは ない――まぁ、いつも痛みなんてほぼ感じないけど。

「あの――まもり姉ちゃん、一体、さんが何したの?」

そう聞いた瀬 那は結構勇敢だと誰もが思った。

「この人は…人を殺しかけたのよ!私があの場にいなかったら、今ごろどうなっていたことか」
「そりゃどーも」
「あなたふざけてるの!?」

姉崎まもりは頭ごなしにキャンキャン怒鳴ってくるが、は相変わらずまともに対 応しようとしない。蛭魔は少しばかり興味を示したようで、荷物を片付けながら二人の様子をボーッと眺めている。

「人を……殺しそう になったって――」

瀬那が蒼白な顔で硬直した。恐怖の目が一斉にに向けられる――あぁ、またこのパターンか。溜め息がてら、は 踵を返してさっさと歩き出した。

「ちょ……ちょっと!どこ行くのよ!!」
「帰る」

姉崎まもりが叫んで、が振り返り もせずにしれっと答えた。

「帰るって――話はまだ終わってないのよ!」
「別に話すつもりなんかないもん」

ヒラヒラと手 を振るは、やっぱり振り返ろうとはしない。

さん……まもり姉ちゃんの言ってること、本当なの?」

怯えたような瀬 那の声が後を追いかけてきた。はピタリと足を止め、鋭い目つきでゆっくり背後を振り返った。蛭魔と偶然目が合って、蛭魔はそそくさと視 線をそらす。



「……だったら何だってんだ」



ボソリとこぼした言葉は、姉崎まもりの睨みを鋭くさせ、瀬那の 表情を強ばらせ、栗田を驚かせ、そして、蛭魔をピクッと震わせた。

(あーあ、めんどくせーなぁ…。まぁ、別に、どう思われたって関 係ないけどさ)

そのまま、は一人ぼっちで家路に着いた。まさか、あの時あった女が泥門先輩だったなんて意外意外。そしてちなみ に計算外。
どうしたもんかね、とは一人で電車に乗り込んだ。




+++




やめて!殺さないで!

ふと、頭の中で少女の金切り声が甦った。そういえば、あの子無事に家に帰ったのかな、と今更ながら不 安を覚える。そっと握った自分の手は、冷えすぎてじんじんと痛みが走った。

その人を放しなさい!!

続いて姉崎まもりの怒鳴り声がフラッシュバック。思わず眉間にしわがよった。

この人は…人を殺しかけたの よ!私があの場にいなかったら、今ごろどうなっていたことか。

そりゃどーも。


あなたふざけてるの!?



本当なの?







……だったら何だってのよ。







ふと、の足が止まっ た。突然に、無意識に、だ。また歩き出そうと足を一歩踏み出す――とたんに、脳内に誰かの声が流れ込んできた。


お前が悪いんだ、このできそこないめが!!
春樹はこんなに頭もいいしいい子ちゃんなのに……。

そいつにさわるな、バカ がうつるぞ、春樹。

お前は母親にすら見捨てられたんだ、ゴミ同等だからな!
お前に「」を名乗る資格なんぞないんだ、親不孝 者が!!



、こんな家、お兄ちゃんと一緒に逃げようよ!



「……ッ!!」

頭痛がして、息 を大きく呑んだ。その拍子に肩が誰かにぶつかってしまい、珍しく情けなく地面に尻餅をついてしまった。ドサ、と背中に小さな衝撃が走る。

「おー、おー、痛いなぁお嬢チャン」

の小さな体の上から、五人分の大きな影が差した。
どうやら不幸にも、ぶつかった相 手は今朝の追っ手だったようだ(顔覚えてないけど)。

「ちょうど探してたとこだったんだ、そろそろケリつけさせて頂くぜ」

腕を引っ張られて強引に立たされ、五人はそのままを暗い人通りの少ない路地へ連れ込んでいく――こちらにとっては好都合だ、好き勝手に 暴れられるのだから。

 ぶ っ 殺 し て や る 

男がギラリと光るナイフを取り出した。しかも一人一本だ。 に向かって牙をむく刃物は、合計五本ということになる。はただ目の前の男をじっと見上げ、笑いも怯えもせずにいた。

「何だ、 気持ち悪ィーな――ちょっとくらい反応しやがれ」
「テメェ一体何様のつもりだぁ?ケンカも強いしどっかの組のモンか?」

ジリジ リとガン飛ばしながら詰め寄ってくる敵。は静かに視線を落とすと、リーダー格の男のナイフを見つめて小さく溜め息をついた。

(なんだ、こいつらの殺気…こんなモンか)

は一瞬スキを見せたかと思えば、次の瞬間リーダーの利き手をギリギリとひねり上げ、 もう片方の手で奴の手首を叩き、ナイフを地面にこぼさせた。

「いででででっ!!」

耳障りな悲鳴が裏路地を駆け抜けていく。
はギロリと鋭い目で奴らを一瞥し、自分の殺気を最大限に放った。怯える男ども。


「何様のつもりだってか?」


ニヤリと口の端を吊り上げ、は言った。


様のつもりだよ!!」


薄暗い路地に、断末魔の悲鳴と骨をねじ るような不気味な音が響き渡った。『お前にを名乗る資格なんぞない』――そんな声が頭の中でフラッシュバックしたが、は全く気にも 止めなかった。



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