リンチ、形勢逆転でございます。ただし、わたくし、あやうく補導されかけたッス(ダメじゃんか) Text book とはいえ、一応奴らも片付けたし、土下座させてもう二度と関わらないよう脅…ゲホ、誓わせたし、とり あえず一件落着。一件だけ落着ね。 一応傷口に包帯巻いていつも通り登校してみたものの、学校はいつの間にやらすっかり殺人 容疑の話題でもちきりになっていた。が通れば土下座して挨拶してくる(どないやねん)。 あれから、小早川瀬那もほとんど関 わってこようとしないし、他部員や助っ人たちも次の試合の日程を知らせたりはしなかった。どうせ前回のみの主務助っ人だったわけだし、大し て気にはしていなかったのだが。 多分、二回戦目の日程も近づいてきているに違いない。瀬那が忙しそうにしているし、姉崎まもりと蛭 魔妖一がよく一緒にいるのを見かけるようになった。 (影じゃ付き合ってるだのないだの噂になってんの知ってんのかあの人ら…) たまたま廊下ですれ違ったとき、ですらそう思った。 ある日の放課後、この日は全面的に部活動禁止の日で、アメフト の奴らも帰ったと思い、は図書室に足を運んだ。これでも読書家、いや速読家。図書室通いだってするさ(しないけど)。 たまたま 棚の一番下から見つけた物語を速読していると、図書室に見知った顔が乱暴に立てて入ってきた。 蛭魔妖一だ。 「おい、糞悪魔」 蛭魔はのすぐ前の席にドカッと腰を下ろし、話しかけてきた。一体、今更何の用だ?例の殺人容疑の件なら一切口を割らないぞと言 おうとした途端、蛭魔が早速本題に入った。 「来週、大会二回戦目だからな。しっかり予定に入れとけよ」 はぁ? 「何 を偉そうに。あたしが引き受けたのは一回だけ。主務になってやると言った覚えはないわ」 本のページに視線を落としたまま、は冷 たく吐き捨てた。しかし、そんなことで蛭魔は引かない。手ごわい相手だよなぁ、とつくづく思ってしまう。 「ま、テメェを無理強いし ようとはしねェ。いずれテメェの方から主務やらせて下さいと頭下げるだろうからなぁ」 「キャハッ、そう思うなら思ってりゃいいさ。あた しは今ん所やってやる気サラサラないからな」 「ケケケ、随分と強気なこった!面白ェ、気に入った!!」 蛭魔の甲高い笑い声が耳について、は臭いものを見るかのように顔をしかめた。視線を上げれば、自分の顔を覗きこんでいる蛭魔のドアップ が視界いっぱいに飛び込んでくる。 「来週の大会までに、テメーをアメフト部の主務にさせてやるからな、覚悟しとけ!!」 自信満々の蛭魔の笑顔。はフンと嘲笑い、冗談じゃねーよと言った。くだらない!青春しちゃって……そんなモン、いずれ仲間に裏切られて 砕け散るんだよ。 でもまー、おもしろそーじゃねーの。こっから、蛭魔が勝つか、が勝つかの、ゲームになるだろうな。 「すんません、遅刻しましたー」 翌日。ガラッと教室のドアを開け、一言目がそれ。もうとっくに授業は始まっていた が、遅刻した人物があのとなれば、教師も言うことがなく、ただ大人しく「ハイ」と空返事をする。 は足で乱暴にドアを閉 めると、自分の席へ歩み寄り、ドサリと乱暴に荷物をおろした。周りの生徒が一斉に距離を置く。 今更そんなことは気にも留めていなか ったが、はふと奇妙なことに気づいた。左隣の席、小早川瀬那――彼だけは、真っ青な顔のまま距離をおかずにそのまま座っていたのだ。 「おおおおおおおおおおおはよう、さん」 「……おうよ」 一応挨拶を返して、は椅子に腰を下ろした。瀬那は椅子にピ ッタリ収まったまま、逃げもしないし近づきもしない――蛭魔の野郎になんか言われたんだな?友達になれ、とか? 「あの、さん…」 「あ?」 一応教科書を出して、ノートを広げていると、瀬那がおずおずと話しかけてきた。何の用だと聞き返してみれば、その気迫 にビビッて悲鳴を上げる。 「――あの、その、僕、教科書を、忘れちゃって、だから、その、見せていただければ、嬉しいなぁ、と……」 「んー?ああ、そんなこと。別にいいけど。じゃ机くっつけてよ」 椅子の上でふんぞり返って手招きすると、周りの生徒が憐れんだ 視線を送る中で、瀬那が机を近づけてきた。片手で教科書を持ち上げて、瀬那との机の間にバンと置く。 その途端、瀬那がウッと呻 いた。 なぜなら、教科書は既に全部予習済み。式や答えを書き込んであったり、とにかくギッシリしているからだ。 「さんって、 実は勉強家なのね……」 「んー、あたし要領悪いからねーえ」 「そ、そう……なの。(イヤミ……かな?)」 瀬那はチラッとの 手元を見た。意外なことに、しっかり黒板を書き写したり、自分で予習の内容を書き足したりして、わかりやすくしている。 ところが、 瀬那がのノートに気を取られているうちに、教師が黒板を一掃してしまった――あああ、まだ書き終わってなかったのに!! 「あ、 あーあ……どうしよ」 あとでまもり姉ちゃんに教えてもらおう、瀬那はノートの次のページをめくって、とにかく授業にかじりつこうと した。その時、瀬那の手の上に、一冊のノートが飛び出してきた。 「………え?」 「写せば?まだ書き終わってないんだろ?」 そんな言葉がから出てくるとは思わず、瀬那は思わず「えっ?」と素っ頓狂な声を上げた。しかもはそれだけでとどまらず、な んと教師に向かって、 「オラ、テメー消すのが早ェんだよ。書き終わってないんだけどよォ」 なんて苦情を出したりまでしてく れた。 瀬那は自分の手元に視線を落とすと、ゴクリと唾を飲み込んでから、のノートをそっと開いた――綺麗な字がギッシリと並ん でいて、輝かんばかりだ。 (ノートを見せてあげることはあったけど、人に見せてもらうのは初めてかも…) 瀬那はノートを広 げると、鉛筆を超高速で走らせて、のノートを書き写した。友達ができたみたいだ。数日前の対キューピッド戦のおかげで、例え泥門第二の 悪魔であろうと、ちょっとは近づけたような気がする。 (意外にやさしいんだよね、さん…) ノートを写し終わって、瀬那 はにノートを返しながら、そんなことを思った。が教師に指示を出して、やっと授業が先に進み出す。 (人を殺しかけたって、 本当なのかなぁ?) 瀬那がそっと首をかしげた時、一時間目が終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響いた。 <<BACK * INDEX * NEXT>> |