お前は甘いんだ。それがお前の敗因。悔しいだろうが、この勝負、俺の勝ちだ。約束は約束。それにいつかきっと、お前は絶対悟るだろう。 自分よりも大事にすべきものを。





The cause of a defeat pt.1




「クソ甘い……」

たまたま無糖ガムが品切れで、仕方なく購入した普通ガム。蛭魔の口には合わなかったようだ。彼はクシャッと顔を歪め、 ガムの包み紙を握りつぶした。

彼は甘いものが嫌いだ。たとえそれがどんなに周りから愛されていようと、彼は揺るがない。





+++





ひーるーまー!!
「…………………えっ!?」




6限目。第二学年のとあるクラスで、聞こえるはずのない声に人々はぎょっとして飛び上がった。蛭魔は一人けろりとした表情で、椅子の上 でふんぞり返って声の主を振り返った。

細かいウェーブのかかった茶髪を軽くかき集めてお団子にして、緑色のスカートは下着が見えるん じゃないかと思うほど短くたくし上げ、ゆるめに締められた真っ赤なリボンを揺らし、美少女が仁王立ちになっている。

……おう糞主 務!ご機嫌いかがかね?
誰が主務じゃ誰が!
遅かれ早かれそうなる運命なんだからいいじゃないか君!
ならんわボケ!!!


「……じゅ、授業を進めましょう」


数学教師は震えながら小さく呼びかけ、と蛭 魔妖一以外の全員はみな黒板に目を戻すことにした。

「で?糞悪魔チャンはこの俺様に何の用だ?」
「あらやだ超偉そう〜」

(((……何なんだろうこのやりとり)))

あまり授業に集中できずにいる生徒達は、冷や汗をたらしながら必死に黒板に注目した。


単刀直入に言おう!


ビシッと右手の人差し指を突きたて、は蛭魔の机の上にドンと左手を叩き付けた。蛭魔が ぷくーっとガムを膨らませ、生徒達が興味津々に聞き耳を立てた。

(まっ――まさかヒル魔の弱みを握ったとか!?)

ゴクリと喉 を鳴らし、一層耳を欹てる一同。は蛭魔に向かってニヤリとほくそ笑む。









お 前の弱みって何?









ええええーっ。

「……わざわざそれを聞きに授業サボって来た のかテメェは」
「だーって全然わからないんだもん。で、ぶっちゃけ弱みって何なわけよ?」
「誰が教えるか糞悪魔!」

蛭魔は牙 を剥いて叫び、ガチャコと銃の先をにあてがえた。はふぅーと面倒臭そうに溜め息をついて、ポンと小気味いい音を立てて銃口に蛭魔の消 しゴムをつめた。


「冷たいなぁー。ちょっとくらい教えてくれてもえーやないかー」
「教えたら負けだろーが糞ボケ!!」


蛭魔は噛み付くように叫び、長い足を机の下から突き出して、の足元を乱暴にすくった。こんなことをしても、きっと彼女ならやすやすと 飛び退けて、甲高い声で冷笑するだろうと、そう思っていた。



ところが。



「ぅあっ」

甲高い、かすかな 悲鳴と共に、がバランスを崩して、確かにふらついた。


「!!」


まさかそんな反応を返されるとは夢にも思っていな かったので、蛭魔は柄にもなく目をひん剥いた。で、心底びっくりしたような顔をして、机にがっちりしがみついている。


「お前、まさか……」


蛭魔が呟いた。
の顔色が変わった気がした。


「あ、そろそろチャイム鳴る!んじゃ失礼し ましたよっと!」

が急に立ち上がり、何事もなかったかのようにけろりとした顔で笑った。口が裂けんばかりの深い笑みを、蛭魔は少 なからず怪訝に感じ、思わず眉をひそめた。

「あ〜、行っちゃったね、ちゃん」

栗田が丸々とした巨体を乗り出して、蛭魔に 話しかけてきた。蛭魔は椅子をそっくり返らせて二本脚でバランスをとり、銃を脇に構えて悠然と風船ガムを膨らませて見せた。

「ヒル魔?」

栗田が首を傾げて、蛭魔の顔を覗きこむ。途端、パチンと音を立てて風船が弾け、蛭魔の顔に深い悪魔の笑みがまたたくまに広がっていっ た。


の脅迫ネタ、ゲ〜〜〜ット



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