お前は甘いんだ。それがお前の敗因。悔しいだろうが、この勝負、俺の勝ちだ。約束は約束。それにいつかきっと、お前は絶対悟るだろう。 自分よりも大事にすべきものを。 The cause of a defeat pt.1 「クソ甘い……」 たまたま無糖ガムが品切れで、仕方なく購入した普通ガム。蛭魔の口には合わなかったようだ。彼はクシャッと顔を歪め、 ガムの包み紙を握りつぶした。 彼は甘いものが嫌いだ。たとえそれがどんなに周りから愛されていようと、彼は揺るがない。 +++ 「ひーるーまー!!」 「…………………えっ!?」 6限目。第二学年のとあるクラスで、聞こえるはずのない声に人々はぎょっとして飛び上がった。蛭魔は一人けろりとした表情で、椅子の上 でふんぞり返って声の主を振り返った。 細かいウェーブのかかった茶髪を軽くかき集めてお団子にして、緑色のスカートは下着が見えるん じゃないかと思うほど短くたくし上げ、ゆるめに締められた真っ赤なリボンを揺らし、美少女が仁王立ちになっている。 「……おう糞主 務!ご機嫌いかがかね?」 「誰が主務じゃ誰が!」 「遅かれ早かれそうなる運命なんだからいいじゃないか君!」 「ならんわボケ!!!」 「……じゅ、授業を進めましょう」 数学教師は震えながら小さく呼びかけ、と蛭 魔妖一以外の全員はみな黒板に目を戻すことにした。 「で?糞悪魔チャンはこの俺様に何の用だ?」 「あらやだ超偉そう〜」 (((……何なんだろうこのやりとり))) あまり授業に集中できずにいる生徒達は、冷や汗をたらしながら必死に黒板に注目した。 「単刀直入に言おう!」 ビシッと右手の人差し指を突きたて、は蛭魔の机の上にドンと左手を叩き付けた。蛭魔が ぷくーっとガムを膨らませ、生徒達が興味津々に聞き耳を立てた。 (まっ――まさかヒル魔の弱みを握ったとか!?) ゴクリと喉 を鳴らし、一層耳を欹てる一同。は蛭魔に向かってニヤリとほくそ笑む。 「お 前の弱みって何?」 ええええーっ。 「……わざわざそれを聞きに授業サボって来た のかテメェは」 「だーって全然わからないんだもん。で、ぶっちゃけ弱みって何なわけよ?」 「誰が教えるか糞悪魔!」 蛭魔は牙 を剥いて叫び、ガチャコと銃の先をにあてがえた。はふぅーと面倒臭そうに溜め息をついて、ポンと小気味いい音を立てて銃口に蛭魔の消 しゴムをつめた。 「冷たいなぁー。ちょっとくらい教えてくれてもえーやないかー」 「教えたら負けだろーが糞ボケ!!」 蛭魔は噛み付くように叫び、長い足を机の下から突き出して、の足元を乱暴にすくった。こんなことをしても、きっと彼女ならやすやすと 飛び退けて、甲高い声で冷笑するだろうと、そう思っていた。 ところが。 「ぅあっ」 甲高い、かすかな 悲鳴と共に、がバランスを崩して、確かにふらついた。 「!!」 まさかそんな反応を返されるとは夢にも思っていな かったので、蛭魔は柄にもなく目をひん剥いた。はで、心底びっくりしたような顔をして、机にがっちりしがみついている。 「お前、まさか……」 蛭魔が呟いた。 の顔色が変わった気がした。 「あ、そろそろチャイム鳴る!んじゃ失礼し ましたよっと!」 が急に立ち上がり、何事もなかったかのようにけろりとした顔で笑った。口が裂けんばかりの深い笑みを、蛭魔は少 なからず怪訝に感じ、思わず眉をひそめた。 「あ〜、行っちゃったね、ちゃん」 栗田が丸々とした巨体を乗り出して、蛭魔に 話しかけてきた。蛭魔は椅子をそっくり返らせて二本脚でバランスをとり、銃を脇に構えて悠然と風船ガムを膨らませて見せた。 「ヒル魔?」 栗田が首を傾げて、蛭魔の顔を覗きこむ。途端、パチンと音を立てて風船が弾け、蛭魔の顔に深い悪魔の笑みがまたたくまに広がっていっ た。 「の脅迫ネタ、ゲ〜〜〜ット」 <<BACK * INDEX * NEXT>> |