男って時たま恐ろしいよね。ホラ今だって、みんな扇子振り回しながら「チーア!チーア!」って叫んでる。 むさい。そんなこと本人らの前 で言ったらボコされるよね。あ、あたしは大丈夫だけど。 Cheer 「どっ、どーしよ〜」 瀬那がオロオロしながら蛭魔にいいつけると、その背後からパソコンを脇に抱えてが後を追って現れた。 「どーもこーも全部部長のせいなんスから、あんたがどーにかして下さいよ」 「あぁ?その辺は主務が手配するはずだろ!」 「だーって泥門はチア部ないんですもーん。なぁー小早川!」 同意を求めるように首を瀬那の方に傾けると、瀬那は「えぇ!?」と あからさまに困惑したような声を返してきた。「うん」といっても「ううん」といっても、蛭魔かが怒るからだろう。 「ちっ――ビ ービーうるせえ奴等だな〜」 蛭魔は顔に青筋を浮かべながら、盛大に舌打ちした。 「やあ、どうも。むさ苦しいデビル バッツさん」 どうもケンカを引っ掛けるような口調で、背後から何者かが声をかけてきた。振り返れば、そこにいたのはピンク のユニフォームを着た男と、そいつに肩を抱かれている女。キューピッドの連中か…。 「いやあ、こっちの声援は黄色くて申し訳ない! こいつらがど〜しても応援に来たいって聞かなくて!」 「初條薫、恋ヶ浜キューピッドキャプテン、40ヤード走5秒1。隣はその彼女」 手元のパソコンに視線を落としながら、は瀬那に耳打ちした。瀬那は「どこからそんな情報を…」と半ば呆れ半ば怯えながら冷や汗を垂 らしている。 「……あらら?」 突然、初條は彼女の肩を抱いたまま辺りをキョロキョロ見渡し始めた。助っ人たちも 瀬那も栗田も、その行動が何だかよく分からず、頭の上に疑問符を浮かべた。 ――と。 「 お や ? ? ! 女 の 子 が 一 人 も い な い ! 」 初條の上げた素っ頓狂な声が、デビルバッツ助っ人 軍を怒りでブルブル震わせた。 「あれ、おっかしいな〜!?泥門高校は 男 子 校 だったかな!?」 明らかにわざと らしい口調だ。助っ人たちはさらに怒り、ギリギリわなわなと拳まで震わせ始めた。だが、初條の視線の先に女子が 一 人 も いない ことは事実。だからこそ余計に苛立つのだ。 (くっそ……口先王ヒル魔なら…) (頼む、なんか言い返してやってくれ〜!) (だって口喧嘩も――) 「「「 ? ? 」」」 いるじゃん、女の子一人。黙ってりゃとびっきりかわいいのが。 「そういえばどこ行ったんだろ?たったさっき までここにいたのに……」 あれ?とキョロキョロ周りを見回す瀬那。それにつられて、助っ人たちもそわそわし始めた。しかし、明らかに 何かを探すようなそぶりが初條の嫌味ネタ増加に繋がったに違いない。 「ふん、こっちはほら、女の子十人以上…」 得意げにな って自分のチームを示し、そして初條の嫌味たっぷりな挨拶もそこで終わりを告げた。彼の示す先には、女の子十人どころか一人もいない。 「…も――あれ?」 何がどうなっているのかサッパリワケが分からず、きょとんと首をかしげていると、彼らの背後からキャッキャと 黄色い声が聞こえてきた。 「あー、ジャリプロの桜庭くんだ!」 「ホントに桜庭くんと合コンできるの!?」 「SMAPのライブ チケット分けてくれるって本当!?」 『DEVILBATS』と綴られたチア衣装を手に、満開の笑顔を浮かべているキューピッド彼女軍団。 その傍らに、薄笑いを浮かべて衣装入りのダンボールを抱えた蛭魔と、すでにチア衣装に着替えてチケットを数枚ヒラヒラさせているの姿が、 しっかりと彼らの目に映ったそうな。 「「おー、てめーらの応援でウチが勝ったらな」」 しかも悪魔二人ハモリ。悪魔にしてやら れたキューピッドの悲鳴は、青い空の下によく響いた。 『 G O ! ! D E V I L B A T S ! ! 』 彼氏<アイドル。 「Ya-Ha-!!これで満足か、糞ヤロー共!!」 蛭魔はダンボールを投げ捨てながら、ビシッと 指をつきつけた。助っ人たちは号泣した上さらに万歳までして、チアガールとを拝んでいる。 「キャーッハッハッハッハ!あーら、 こっちの声援は黄色くて申し訳ない!!」 は蛭魔の隣でポンポンを高く掲げて振り、キューピッドに向かって甲高い笑い声をふっかけ た。 「いないと思ったらあんなところに……」 「二人とも仲悪いけど、実はノリが似てるよね。行動早いところとか」 呆れる 瀬那に、栗田が苦笑しながら言った。 「で、でも――」 瀬那はそっと殺気立つ背後を見やり、冷や汗を頬に伝わせた。 このチアもキューピッド側から引っこ抜いてきたもの。これでキューピッドが怒らないわけがない。 「ひ、火に油注いでるだけなんじゃ…」 やはり予想的中。キューピッドは激しい憎悪と怒りで、メラメラと燃え盛っている。 「「 鎮 火 」」 そう言いながら、蛭魔とはそろって自分のパソコンのキーをカチリと押した。いつの間にシステムをジャッ クしていたのか、キューピッドの燃え盛る炎の上からスプリンクラーの水が降り注いだ。 「ところで、この桜庭くんの写真って合成?」 は先ほどダシにしていた写真をヒラヒラと振り、新たな話題を持ち出した。困ったように笑う桜庭がでかでかと映っていて、 その肩辺りには、見覚えのある悪魔の顔が少しだけ画面に映っている。 「あー、違う違う。それ生写真。去年の練習試合でムリヤリ撮った。 高校でアメフト部入ってんだよ、桜庭」 蛭魔は面倒くさそうにブンブン手を振って否定した。 「王城ホワイトナイツって強豪でさ。 強かったな〜」 「お、王城ホワイトナイツ…?」 栗田のセリフに鋭く反応したのは。小声で聞き返すと、栗田は「うん」と頷いた。 「でもなんとか99対0に抑えたよ!」 「えっ、勝ったの!?」 「 ま さ か 」 瀬那が驚いて叫ぶと、どこから ともなく石丸が現れて一蹴した。――ということは。 「99回もゴールされたのか…」 「いや、アメフトって一回で6点とか入んだって」 エンドゾーンを見つめて途方に暮れる瀬那に、はアバウトな説明で教えてやった。すると、ベンチの方から「ほう!」と感心したよう な声が飛んでくる。 「なんだ、糞副主務。テメェアメフトのルール知ってんのか?」 「ちょっとだけ。興味本位でほんの少しかじった 程度っスよ」 は人差し指と親指で短い隙間を作って示した。興味本位っていうか、本当は小さいころからキラキラ目を輝かせて説明す るアイツに付き合ってやっていただけなんだけど。 「あ、じゃあ試合始まる前に簡単に説明してあげるよ」 栗田は愛想笑いをうかべたままかがみこみ、蛭魔の足元のカバンからゴソゴソと アメフトのボールを引っ張り出した。それは何だか懐かしい色をしていて、珍しくの興味を引いた。 <<BACK * INDEX * NEXT>> |