弱小同士がぶつかり合っても盛り上がらないもんなんだねぇ。スパイも見えないし、平和な試合だ。これから殺し合いがあるみたいだけど。





We'll kill them! Yeah!!




要は、あの楕円形のボールを持って敵陣エンドゾーンに走りこめばいいらしい。 それで6点ゲットできちゃうんだって。

「エンドゾーンってのはあそこな」

蛭魔がパソコンのキーを押すと、ゴールのふもとから スプリンクラーが高々と上がった。

「え、ゴールってあの棒じゃないんですか?」
「ああ、あそこに入れるのもアリ。でもそれは3点 ね」

瀬那が質問すると、栗田はボールを蹴りながらやさしく答えた。小さな弧を描いたボールを、瀬那は難なくキャッチ。

「じゃあ、走って入れた方が特ってことか。6点だから……」

が要点を呟くと、ベンチに腰掛けたままの蛭魔が「走れるときはな」と 口を挟んできた。

「でも敵もこうしてタックルで止めに来るから」

栗田はまた説明を再開し、その巨体で瀬那に向かってタックル を仕掛けていった。臆病な瀬那が、それを見て驚かないわけがない。

 ぎ ゃ あ ! 

瀬那は大声で悲鳴を上げながら、栗田の脇を見事にすり抜けて逃げ出す。

「それをなんとか避け――」

栗田が説明の続きを言いか けたころには、瀬那は既に数メートル離れた所で急ブレーキを掛けていた。その走りの速いことといったら、傍に立っていたの髪がバサバサと 乱暴になびいたほどだった。

「わわ…な、何!?スゴッ…」

流石のもびっくりして目を丸くした。

「やっぱこいつ 今日の試合出そう!」
「そ、そんなイキナリムリヤリ…」

蛭魔がガシッと瀬那の首根っこを掴んでニヤリと笑うと、栗田はオロオロ しながら反論した。猫の子みたいになっている瀬那は、足をバタバタさせながら悲鳴を上げている。

――れ?待てよ、『試合に出す』って ことは……?

「まさか、小早川って選手なのか?」
「まー色々と事情が」

蛭魔は瀬那をパッと手放し、面倒くさそうな表情で 答えた。

「勝てそうなら出さねーよ。秘密兵器ばらすこともねーしな。でもヤバけりゃワンポイントでも出す!」

蛭魔の勝手な 言葉に瀬那はぶるっと大きく身震いし、敵軍をチラリと見やった――怒りに打ち震えていて、先ほどの数倍も強そうに見える。

「あ、あ れ?急におなかがイタタ……ガンかな?」

瀬那は腹を押さえ、冷や汗をダラダラと垂らしながら小声で言った。

「おーそりゃまあ 唐突だな」

が一応つっこんでやったものの、瀬那はそれどころじゃないらしい。

「今日は運動は無理かな〜?なんて…」
「ん〜そりゃ一生無理だろうな」

ところが、瀬那の言葉を聞いていたのは、唯一ツッコミを入れてやっている一人だけだった。


「よし集合!」


人差し指をピンと立てて合図を出している蛭魔――そろそろ試合開始みたいだ。

「聞いてすらいない し!この人に何言ってもムダだ…」
「でも勝ってれば出なくても済むんじゃん?せいぜい応援しときなよ、寿命が延びるように」

瀬那を何とか慰めたつもりだったのだけれど、が言うとどうしても嫌味にしか聞こえなくなってしまう。それでも瀬那は気にしていなかったら しく、「そうだよね!頑張れデビルバッツ〜!」と控えめに声を上げた。

デビルバッツ一同がフィールドの端で円陣を組んでいる。は 瀬那の首根っこを引っつかんで自分ごとぐいぐいと輪の中にねじ込み、ちょうど蛭魔の真ん前に飛び出した。
顔が近い。こうやって近くで見る と、奴も意外にきれいな顔をしていらっしゃる。

「いいか、てめーら。負けたら終わりのトーナメント、いい試合しようなんて思うなよ」

なんだかこれから戦争に行く軍人みたいだ。

 ぜ っ て ー 倒 す 。 そ れ だ け だ 

ニヤリ、蛭魔は一層笑みを深くする。間近でその表情を目の当たりにしたは、燃えてるなーと軽く感心しておくことにした。



 ぶ っ 



蛭魔が空に向かって吠えた。それだけじゃない、助っ人たちも同じように空に向かって叫んでいる。 なんだろう、とがキョロキョロしていると、瀬那も同じように首をかしげているのが見えた。


「  」


読めてきた。



 ろ す ! Y e a h ! ! 



おやまあなんて 教育に悪い…人の事いえないが、は物凄い迫力で意気込んでいる彼らの輪の中で、かったるそうに溜め息をついた。

「な、なんちゅう かけ声…」
「これから戦争にいくらしいな」

の言葉に、瀬那はちょっと笑った。


『それでは、泥門デビルバッツ対 恋ヶ浜キューピッドの試合を始めます』

ワッと空に響く、実況解説者の声。ヘルメットを装着し、蛭魔妖一を先頭にデビルバッツがフィー ルドへ入場していく。と瀬那はカメラを構え、彼らが並ぶのを見守った。


「Ya-Ha-!!」


蛭魔の叫び声と共に、戦いの幕が切って落とされた。泥門、蛭魔のキックオフと共に、ゲーム開始だ。



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