キューピッドのキック。石丸先輩を使って阻止しろ!そんな作戦も虚しく、初條のキックは見事決まっちゃった。理由は、石丸先輩が転んじゃった から。あーあ、終わっちゃうかな。運が悪けりゃ、このまま初戦敗退だ。





EYE SHIELD 21




「ついに3点ー!残り数秒で入れやがった!!」

誰とも知れぬ声が観客側から上がる。瀬那も、蛭魔も、栗田も、泥門側はみんな苦い顔を してそれを悔やんだが、入ってしまったものはどうしようもない。

「の、残り数秒……負けちゃうの?大会もうおしまい??」

ビデオカメラを抱える手をブルブルと小刻みに震わせながら、瀬那が弱々しく呟いた。はカメラを顔から離し、膝の上において頭の後ろで両手 を組む。

「さーね。でもま、こういう乱闘競技は残り数秒でも勝算はあるもんだぜ。エースが怪我で退場しなけりゃさ」
「え…」
「例えば石丸先輩とか」

の声が空に消え入るなり、もうもうと立ち込める砂埃の中から足を押さえてうずくまる石丸の姿が現れた。

「痛ゥッ…!」

呻きながら、石丸はそっと上半身を起こす。しかし右足を庇ったままだ。転んだ時にどうかしたのか。

「い、 石丸くん!」
「ヤバイ、右足ひねった!」

呻き声に近い声質で答える彼の方へ、つかつかと悪魔が歩み寄っていく。何をするのかと 思って見ていると、彼は石丸の右足を乱暴に掴み、自分の方へとひねり上げた。

「なんだこりゃ、人工芝用のスパイクじゃねーか。 滑るに決まってんだろーが。誰だこんなの渡したバカは!」
「あだだあだだ!」

無理にひねり上げられてそれだけでも痛いのに、 それにケガの痛みがプラスされているもんだから、かなりの痛みを石丸は味わったはず。石丸は涙目になりながら悲鳴を上げた。

「…あ!!」

一方、蛭魔の言葉に何か思い当たることがあったのか、誰かが大声を上げて飛び上がった。急いで全員がそちらに視線を 向けてみると、そこには瀬那があからさまに「しまった!」と困惑している表情を浮かべていて。


テンメー、糞主務コンビ!! スパイクくらいちゃんと見分けやがれ!


グルンと振り向きざま、蛭魔はこちらにむかって怒鳴りつけてきた。

「ひー、 ごめんなさい!」
「ごめんなさー…って あ た し じ ゃ ね ェ ー ! ! 

瀬那がすぐ傍で悲鳴を上げたせいで ついうっかりノってしまった(あーら失態)

「るせェ!連帯責任だ!来い、ともかく死刑にしてやる!」

蛭魔は両手でそれぞれの 襟首をむんずと掴み、ズルズルと建物裏へと引きずり込んだ。そこは薄暗くって、リンチには絶好のスペースだ。(ちくしょー小早川め!!)

ドサ、ドサ、と投げ捨てられ、は瀬那の腹の上にまともにすっ転んだ。グエ、と下でつぶれたような声が上がる。失礼な、そんなに体重 重くないっての!

「てめーらのせいだからな、責任取りやがれ!」

蛭魔はの上から何か重いものを多数放り投げてきた。 なんだろうと思ってそれを手にとると、なんとそれはアメフトの防具だった。


「何これ…アイシールドつきのヘルメットに、21番?」
「ま…まさか――」


にはまったくワケが分からなかったのだが、瀬那はそれが一体なんなのかを悟ったらしい。その蒼白な 表情や先ほどの会話から、勘の鋭いもなんとなく予想がついてくる。


「Ya-Ha-!!そのまさかだ!テメーには責任もって、次の プレイで6点取ってもらう!!」
「えぇ!?あたしに!?」
「そう…って違ェーよファッキ ン!セナに言ってんだ、セナに!!」


わかっていながらありきたりなボケをかましてみると、蛭魔は目を三角に した上、噛み付かんばかりの迫力で猛烈にツッコミをいれてきた。

「で。テメーはセナの着替えを手伝え、!終わったらさっさと 戻って写真係、その後用具の片付け!」

とっておきの睨みをきかせ、蛭魔はビシッとその長い指をの鼻先に突き立てた。まったく、 チンタラ試合に退屈させられた上に、雑用係まで押し付けられるのか――やっぱり、来なければよかった。

「はいはい。じゃあ部長は さっさと戻って下さいな。…いちいち怒鳴られるの鬱陶しいっす
 だ か ら 殺 す ぞ っ つ っ て  ん だ ろ 
 だ か ら 何 が ! ! 

ボソッと呟いた悪態、返ってきた暴言、それに対してしらばっくれ る。先程も同じやりとりがあったような。



+++



ざわめきの中、石丸が担架に乗せられて運ばれていく。 そこへ、蛭魔が手をパンパンと叩いて埃を叩きながら姿を現した。

「あーよく殺した!」

なんかもう日本語がメチャクチャだが、 それでも助っ人たちはガタガタブルブル震えている。

「あのをこの短時間で…」
「ウソだろ?も敵わねェのかよ…」

ヒソヒソ声で喋る彼らの傍ら、栗田は別件で心配そうな表情を浮かべながら蛭魔の方へ駆け寄ってきた。

「そうそう、石丸くんの代わりは?」
「ピンチにはヒーローが来るもんだ」

蛭魔はかなりあいまいな返事を返し、助っ人たちはまったくワケが分からずにキョトンと首を かしげた。


と、その時。


助っ人たちも、チアガールたちも、それを見るなり目を丸くして息をのんだ。校門の方から、 何か赤いものが大袈裟な砂埃をあげながら猛スピードで飛んでくるのだ。

次の瞬間それはほとんど倒れこむようにしながらブレーキをかけ、 ワッと巻き起こった砂に助っ人たちは思わず顔を伏せた。何事だ、そう彼らの顔に書いてある。

「紹介しよう」

蛭魔は仁王立ちに なり、アイシールドの21番を見下ろした。



 光 速 の ラ ン ニ ン グ バ ッ ク 、 ア イ シ ー ル ド  2 1 ! ! 



キラリと反射光でアイシールドが光り、アイシールド21の決めポーズをさらに神々しく飾った。
とはいえ、中身は所詮パシリの瀬那。

(病院予約しとこ……)

深い緑のアイシールドのむこうで、瀬那はダラダラと涙を滝のように 流したという。



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