小早川の着替え手伝い終わったら、さっさと写真撮りに戻れってよ。けどさー。もうフィルムないんだけどどうしましょう? なくなっちまったって吐けば許してくれるかな。んなこたないか。





Hod down!




「ま、まじ速ぇー!何だアレ!?」
「つーか誰?」
「アイシールドで顔わかんね」

もうもうと上がる砂煙の中の、華奢でそれでも頼もしそうな姿。助っ人たちは興味津々なようす。

「色付きアイシールドは禁止だよ」

審判が蛭魔に向かってアイシールド21を指差すと、蛭魔はニヤリと口の端を吊り上げて、かばんの中 から怪しげな紙を突き出した。

「こいつ眼精疲労で…協会の許可証(偽造)あります」



くらえ、ティオティチャギ !!



ヒュッと空を切る音がして、何か緑色のものが蛭魔に蹴りを食らわせた。蛭魔は間一髪のところでヒョイと避け、 目標を失ったそれはそのまま物置に巨大な凹みを作った。

「オレを殺す気か糞悪魔!!」
「おー殺し返すなよ」

目を三角に して凄んでくる蛭魔にケラケラと笑いながら返す。こんなことをできるのは、泥門第二の悪魔・くらいのもの。

さん…。 ていうか何?『ティオ…』??」

アイシールド21が冷や汗を垂らしながらに問う。は得意げに胸を張り、いつもの悪魔笑みを浮か べて甲高い声を上げた。

「キャハハー。ティオティチャギ、後ろ回し蹴りー!!」



突如、ドスドスッ、という地響きが 背後から聞こえてきた。みんな何気なく振り返り、そしてギョッとして硬直した。栗田がアイシールド21を潰さんばかりの勢いで、彼にしては軽や かなスキップで駆け寄ってくるのだ。

「もしかしてやる気になってくれたの!?セナく――」


バ ラ  す な ー ッ ! !


蛭魔と。その二人が、半ば反射的にスタンガンを食らわせた。栗田の言葉を遮るように。


 ひ ば ぼ べ べ 


ビシャア、そんな音が響き渡ると同時に、栗田の奇声が 青空の下に轟いた。

「何?セナくぁ?背中セナくぁがカユい?じゃあ 地面でこすろう!」

蛭魔は栗田の両手を掴んで、地面に乱暴にこすり付けている。何て白々しい、と誰もが思ったが、アイシールドの正体 に気付いたものは誰一人としていなかった。

「こ・の・糞デブ!他の運動部連中にバラしてどーする!石丸なんかズバリスカウトのために 来てんだぞ!」

げしげしと真ん丸い栗田の腹を足蹴にしながら、蛭魔は鋭い牙をむいて怒鳴りつけた。

「それに…進もいる!」

そして蛭魔は突然蹴るのをやめて、サッと体勢を立て直して彼らの方に顔を向ける。

「なるべくセナの情報与えたくねェ。正体 だけでも隠さねェとな」

そこまでして隠すとは――やっぱり王城ホワイトナイツ、いや、進清十郎とは物凄い人物なのだろう。は改め て思い知らされた。

「まぁ、桜庭だけでも排除しとくか。簡易ミサイルで」

またいつも通りの笑みを浮かべながら、蛭魔がチア の方へ足を進めた。栗田もセナも「ミサイル!?」と顔を真っ青にしたが、何だか大体読めてきた。

「おや、あれはジャリプロの桜庭クン だ!」と、蛭魔がチア軍団に向かって言う。
「桜庭くん!?」と過剰反応するのはチアガールたち。


「きゃー!桜庭くーん!!」


黄色い歓声を上げながら、チア改めミサイル発射。慌てた桜庭はビデオを進に託して脱兎の如く逃げ出した。

が、消えたのは 桜庭だけではなかった。

「お?なぜか進まで消えた!」
なんで!?

嬉しそうに口の端を吊り上げる蛭魔の視線の 先には、誰もいない。はかなり不思議に思いながら叫んだが、誰も答えを返してはくれなかった。

それでも、デビルバッツにとって は結果オーライだ。スパイが消えた今、何を隠すことなく突っ走ることが出来るのだ。

「よーし、思う存分ってやれ!アイシールド21!」
(今「ぱ」って言った!「ぱ」って 言った…気のせい?)

蛭魔が拍車をかけても、瀬那は一部分ばかり気になっていて、あまり聞いていないらしかった。

「残り時間 九秒!泣いても笑ってもラスト1プレーだ!」

蛭魔はビシッと瀬那の鼻先に指を付きたて、半ば怒鳴りつけるように言い聞かせた。

「キューピッドのキックオフから始まるが…このキャッチはテメーじゃ無理だ。代わりに俺が取る。そのままトスするから、ボール受け取って、 エンドゾーンにダッシュ!6点ゲット!6-3、逆転勝ー利!」
「そんな都合よく…」
「途中でコケたら終わりだから気をつけろ!」

栗田の反論も無視して、蛭魔はさらに瀬那に注意を聞かせた。

「で、でも十一人もタックル来るのに――」
もうそれしかねーん だよ!

この期に及んでの瀬那の駄々に堪えかねて、蛭魔が目を思い切り吊り上げて怒鳴った。栗田も瀬那もビックリして飛び上がる。

「テメーだってここで終わりはイヤだろう」
「それは…」

思わず言葉を失う――だって、さっき「大会もうおしまい??」 などと喚いていたのは自分だ。けれど、僕が出る?試合に、僕が…?もし失敗したら――


こういう乱闘競技は 残り数秒でも勝算はあるもんだぜ。


ふと、頭の中での言葉が甦った。あれ、そういえばさんはどこだろうと顔を上げて みると、いつの間にかフィールドの外に出ていて、一人ぽつんとビデオカメラをいじっている。

チンタラした試合 だな。つまんないの、来なきゃ良かった。

(チンタラしなければ…いいってことだよね)

瀬那はゆっくりと蛭魔の方へ 視線を戻し、ゆっくりと、そして力強く頷いた。

「が、頑張ります…!」
「お?珍しく強気だな」

蛭魔は驚いたような口調で 言ったものの、その口端はこれでもかというほど吊り上がっていた。

「でも…期待はしないで下さい。僕はその…力がないから、栗田さん みたく敵をねじ伏せたりとかできれば…」
「「それは無理だよセナ君…」
だな明らかに」

うぅ、即答ハモリ…。

「誰が敵をねじ伏せろっつったよ。テメーの腕力なんざ誰も期待しちゃ いねーよ」

蛭魔が小柄な瀬那を見下ろしながら言うと、その隣で栗田がうんうん頷きながら、フンと誇らしげに鼻息を吹き出した。


「そう…その代わり、セナ君には足がある!」

フ ィ ー ル ド を ね じ 伏 せ ろ ! !


そんな蛭魔と 栗田の言葉が、その時のセナの脳内には異様なほど響き渡った。



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