翌朝、ぼんやりと目を覚ましたレノーラは、見覚えのない天井に一瞬戸惑った。寝ぼけたまま二、三度まばたきして、ようやくホグワーツにいるということを思い出した。そして同時に、眠りの中では忘れていたモヤモヤまで蘇ってくる。そうだ……ここはグリフィンドールの寮…私、スリザリンには入れなかったんだ。

 レノーラはしばらくベッドに横たわったまま、これからどうするべきか考えていた。きっと、マルフォイとの仲は修復できないだろう。スリザリンに入ることができたマルフォイは、レノーラを軽蔑しているに違いない。それは確かだ。あの冷たい目を見れば分かる。でも、よくよく考えたら、それはどうだってよいことだ。もともとマルフォイとは、同じ思想を共有してると言えど、あらゆる点で気が合わなかった。
 問題は、両親になんて報告すればいいのかだ。今頃は二人とも、きっと娘は無事スリザリンに決まったと思っているだろう。真実を伝えるのが辛い。他の寮ならまだしも、ウィーズリー軍団と同じ寮になったと知ったら、アステリアは気絶してしまうんじゃないだろうか。
「レノーラ?もう起きないと、初日から遅刻してしまうわよ」
 カーテンの外からお節介なテイラーの声がした。レノーラはようやく起き上がった。
「言われなくたって起きてるわよ!」




†††




 ホグワーツの城の造りは、思っていたよりも粗雑だった。階段が一四二もあり、広くて立派な階段もあれば、狭いガタガタした階段や、毎週金曜日に違うところへ繋がってしまう階段、真ん中の一段が毎回消えてしまうので、ジャンプして飛び越えなければならない階段(ネビルはさっそく足を嵌めて大騒ぎしていた)などがあった。扉もおかしなものばかりだった。丁寧におじぎをしないと開けられない扉、決まった場所を正確にくすぐってやらないと開かない扉、精巧な騙し扉……。どれがどういう性格の持ち主か覚えるのには、相当苦労しそうだ。
 また、ホグワーツには数多くのゴーストが住んでいる。彼らにも対処が必要だった。うっかり体を通り抜けられると、バケツいっぱいの冷水を頭からかぶったような感覚になるのだ。グリフィンドール憑きの『ほとんど首無しニック』は、新入生に道を教えてくれるたいへん親切なゴーストだったが、対してポルターガイストのピーブズはパーシーの言った通りの厄介者だった。道を聞けば間違った道順を教えるわ、生徒の頭の上でゴミ箱をぶちまけるわ、チョークのかけらをなげてぶつけてくるわ……とにかく、ピーブズらしき物音が聞こえたら回れ右をしろ、というのが新入生の鉄則だった。
 管理人のアーガス・フィルチは根性悪で、何かと言いがかりをつけては生徒に罰則を与えたがった。現に、新学期初日から、ハリーとロンが間違えて四階の立入禁止の廊下のドアを開けようとして、「地下牢に閉じ込めて吊るしてやる!」と脅されていたのをレノーラは目撃している。
「脅威はフィルチだけじゃない。ミセス・ノリスにも気をつけろ」
 上級生からの忠告は、その日のうちに全校を駆け回った。
 フィルチの飼い猫ミセス・ノリスは、言ってみればフィルチのミニチュア版だった。やせこけた体はほこりっぽい色をしていて、フィルチそっくりのランプみたいな出目で、いつも生徒たちを監視していた。ミセス・ノリスの目の前で規則違反をしようものなら、二秒後にはフィルチが息を切らして飛んでくる。これには参った。フィルチは学校中の秘密の通路を熟知していたので、いつでも突然ヒョイと現れるのだ。もっとも、双子のウィーズリーには負けるかもしれないが。
「フィルチめ。いつか絶対、ミセス・ノリスってやつをしこたま蹴飛ばしてやる」
 朝食の席で、ロンが歯ぎしりしていた。四階の廊下で脅されたのをまだ根に持っていたらしい。
「どうぞ、お好きになさい」ハーマイオニーが言った。「フィルチにばれて、地下牢に吊るされてもいいのなら」

 水曜日の真夜中に行われる「天文学」は、たちまちみんなの大好きな教科になった。望遠鏡で夜空を観察して、星の名前や動きを記録するという授業だ。担当のジェニー・カレンダー先生はきれいな女の人で、ハキハキした話し方と、時々見せるお茶目な一面が生徒たちを強く惹きつけた。
 週三回、ずんぐりしたスプラウト先生につれられて城の裏の温室で「薬草学」を学んだ。ハッフルパフとの合同授業だった。不思議な植物の生態や育て方を教わり、どんな用途に使われるのかを勉強した。
 セドリックに教えてもらった通り、「魔法史」は退屈だった。唯一ゴーストが教鞭をとっているクラスだ。ビンズ先生は昔、教員室の暖炉で居眠りをしてしまい、そのままポックリ逝ってしまったらしい。翌朝、授業に行こうとして気づくと、生身の体を教員室に置き去りにしていたと言う。先生が黒板をスーッとすり抜けて登場したのは衝撃的だったが、講義が始まると、睡魔との戦いを強いられた。
 「妖精の魔法」のフリットウィック先生は、屋敷しもべ妖精なみに小さな魔法使いだった。普通に立っては教卓の陰に隠れてしまうので、本を何冊も積み上げて、その上に立つことでようやく顔が見える程度だった。フリットウィック先生は最初に出席をとったが、「ハリー・ポッター」の名前を見た瞬間、興奮してキャッと言いながら、すっ転んで見えなくなってしまった。
 ミネルバ・マクゴナガル先生の「変身術」は、お説教から始まった。
「最初に警告しておきますが、『変身術』は、ホグワーツで学ぶ魔法のなかで最も複雑で危険なものの一つです。いいかげんな態度で私の授業を受ける生徒には出て行ってもらいますし、二度とクラスに入れません」
 緊張が走った。生徒たちはみんな無意識のうちにぴんと姿勢を正していた。マクゴナガル先生はクラスをぐるりと見渡すと、ふいに表情を緩め、教卓を豚に変えてみせた。誰もが感激して、早く試してみたくなった。しかし、先生が見せてくれたような派手な魔法は、一年生にはまだ早すぎるということが、すぐに思い知らされた。先生は複雑なノートをとらせた後、全員にマッチ棒を一本ずつ配り、それを針に変える練習をさせた。
「ダメ。何の変哲もない」
 ザンダーは杖を振り回しながら絶望的な声で言った。ザンダーのマッチ棒はピクリともしない。
「あぁ、でも、見て。はじっこが少しとんがってきたみたい」
 ウィローがザンダーの手元を指差して慰めた。そういうウィローのマッチ棒は、ほぼ針に近しい姿へと変貌を遂げていた。レノーラは「『半純血』なんかに負けてたまるものか」と、必死の思いで杖に力を込めていたが、マッチ棒が銀色になる気配は一向になかった。
 結局、終業チャイムが鳴るまでに、マッチ棒をわずかでも変身させることができたのは、ウィローとハーマイオニーだけだった。マクゴナガル先生は、二人のマッチ棒がいかに銀色で、いかに尖っているかを賞賛して見せた。
「素晴らしいですね。グリフィンドールに五点差し上げましょう」
 ウィローとハーマイオニーは嬉しそうに顔を見合わせた。マクゴナガル先生は、めったに見せないであろうやさしいほほ笑みを浮かべていた。

 ところで、クィリナス・クィレル先生の「闇の魔術に対する防衛術」の授業は肩すかしだった。教室中にニンニクの強烈な臭いがプンプン立ちこめていて、壁のあちこちに十字架が張り付けてあった。聞いたところによると、これはクィレル先生がルーマニアで出くわした吸血鬼バンパイアを撃退するためのまじないらしい。クィレル先生はいつも頭に巨大なターバンを巻いていたが、本人は、やっかいなゾンビをやっつけたときに、アフリカの王子様に授与されたものだと語った。
「先生!どうやってゾンビをやっつけたんですか?」
 シェーマス・フィネガンが質問した。クィレル先生は真っ赤になって、お天気について話し始めた。
「どうも怪しい」
 クラスのみんながそう思ったし、上級生も同じことを考えていた。クィレル先生の態度もおかしいが、あのターバンはいつも異臭を放っているからだ。双子のウィーズリーは、教室にあるような奇妙な『まじないグッズ』を、ターバンの中につめこんでいるんだと言い張っていた。

 金曜日の朝一番の授業は、レノーラがこれまで一番恐れていた科目だった。「魔法薬学」——スリザリンの寮監セブルス・スネイプが教鞭をとっていて、スリザリンと合同で行われる。スリザリンに入り損ねたレノーラにとって、これほど心苦しいクラスはなかった。
 「魔法薬学」の授業は、じっとりと肌寒い地下牢の教室で行われた。そこには、壁一面に棚が並び、アルコール漬けの動物がプカプカ浮いていた。
「うっわぁ……何ていうか…雰囲気ある」
 ザンダーはそこら中に置かれた怪しげな瓶を指差し、ぶるりと身震いした。
 スネイプはまず出席を取った。レノーラの名前を呼ぶとき、ハーグリーヴスをわざと強調したので、スリザリン生の一部がクスクス笑っていた。レノーラはむっとしたが、すぐに「それくらい」何でもないことだと分かった。
「あぁ、さよう」
 スネイプはハリーのところで少し止まった。
「ハリー・ポッター。我らが新しい——スターだね」
 スリザリン生がいっせいに冷やかし笑いをした。
 出席を取り終わると、スネイプはぐるりと生徒たちを見渡した。ネットリとした黒髪と、土気色の顔、暗くて冷たい目に、鉤鼻——全身を黒いローブに包んでいると、まるでコウモリの化け物のようだ。この先生とは絶対に仲良くなれない、とレノーラは確信した。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
 スネイプがゆっくりと話し始めた。マクゴナガル先生と同じく、私語を許さない緊張感があった。
「このクラスでは、杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君にこの魅力を理解できるとははなから期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする技術だ——我輩がこれまで受け持ってきたウスノロよりも、諸君がましであればの話だがな」
 全員がシーンとなった。ウィローとザンダー、ハリーとロンが顔を見合わせた。レノーラは椅子にふんぞり返ったまま、スネイプに気づかれないようにそっぽを向いて「オエ」と舌を出した。ハーマイオニーは自分がウスノロではないことを一刻も早く証明したいらしく、机にどっかりと身を乗り出していた。
「ポッター!」突然、スネイプが怒鳴った。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
 レノーラは、スネイプが「古代シュメール語」を話し出したのだと思った。ハーマイオニーとウィローの手が素早く空中に挙がった。
「…わかりません」
 ハリーが正直に答えると、スネイプは「チッ、チッ、チ…」と舌を打ってせせら笑った。
「有名なだけではどうにもならんらしいな。ポッター、もう一つ聞こう。『ベゾアール石』を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」
 ハーマイオニーとウィローがすぐさま挙手した。二人とも、椅子に座ったままで挙げられる限界の高度まで手を伸ばしていた。ハリーは相変わらず答えが分からないようだった。レノーラは予習を一切しておらず、『ベゾアール石』が何なのかすら分からなかったので、ハリーが代わりに犠牲になってくれて心底ホッとした。
「わかりません」
「クラスに来る前に、教科書を開いてみようとは思わなかったのかね?ポッター、え?」
 マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っていた。スネイプはハーマイオニーとウィローの手をわざと見ないようにしているらしかった。
「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンの違いはなんだね?」
 ハリーはまたしても黙り込んだ。ハーマイオニーはとうとう椅子から立ち上がり、天井に向かって手を突き上げながらピョンピョンしはじめた。ウィローは諦めて、手を挙げることすらしていなかった。
「わかりません」ハリーは冷静だった。「ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう」
 グリフィンドール生が何人か笑った。スネイプはハーマイオニーに向かって「座りなさい」と命令した。
「ハーグリーヴス!」
 まさかここで矛先を向けられるとは思ってもいなかったレノーラは、驚くあまりに、椅子から二十センチも飛び上がってしまった。
「今の質問の答えを言え。全部だ」
 もはや質問文すら覚えていない。レノーラは困惑してあたりを見渡した。クラス全体の目という目がすべて自分に注がれている。マルフォイはニヤニヤしながらレノーラの困った姿を満喫していた。
「すいません。分かりません」
 レノーラは小さくなって正直に謝った。スネイプは鼻先で笑い飛ばした。
「君のご両親は非常に優秀なスリザリン生だったと聞いているが、どうやらミス・ハーグリーヴスはどちらにも似ていないらしい。知識不足を開き直り、ふんぞり返って授業に臨むとは」
 レノーラは真っ赤になって姿勢を直した。スリザリン生どころか、グリフィンドール生まで笑っている。
「ミス・チェイス。質問の答えが言えるかね?」
「はい、先生」コーディリアがしゃんと背筋を伸ばした。「アスフォデルとニガヨモギを合わせると、強力な眠り薬になります。効力の強さから『生ける屍の水薬』とも呼ばれています。ベゾアール石は山羊の胃から取り出すことができ、たいていの薬に対して解毒作用を持っています。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名アコナイトとも呼ばれますが、要するにトリカブトのことです」
「大変よろしい。スリザリンに五点」
 最前列のコーディリアは勝ち誇ったような顔でグリフィンドール生を振り返った。
「どうした、諸君。なぜ今のを全部ノートに書き取らんのだ」
 みんな慌てて羽根ペンと羊皮紙を引っぱり出した。ノートを広げた頃には、レノーラは既にコーディリアの解答を忘れてしまった。
「ポッター。君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」
 レノーラは自分が減点対象にならなかったことを奇跡だと思った。

 初回から、スネイプは生徒を二人一組にさせ、実技をやらせた。おできを治す簡単な薬の調合だった。レノーラはテイラーと組み——何しろ、さっきのコーディリアの勝ち気な顔を見たら、スリザリンとつるむ勇気はなくなってしまった——干イラクサを計り、蛇の牙を砕いた。スネイプは長い黒マントを翻しながら教室中を回り、ほとんど全員に難癖をつけた。お気に入りらしいマルフォイとコーディリアだけは、逆に絶賛されていたが。
「この授業、選択になったらとるのやめるわ」
 大鍋をかき混ぜながら、テイラーがささやいた。
「でも、それってうんと先の話よね。それより、スネイプが事故で猛毒かぶってくれたら最高」
「テイラー!」
 レノーラは慌ててたしなめたが、スネイプは教室の反対側で「マルフォイ君が角ナメクジを完璧にゆでた」と絶賛している真っ最中だった。
「冗談。ちょっと笑わせたかったのよ。あなた、いつもつんけんしていて嫌な感じだから」
「余計なお世話よ」
 レノーラがそう言い返そうとした時、すぐ隣のネビルが急に悲鳴を上げて飛び退いた。地下牢いっぱいに緑色の煙が上がり、どう考えてもしてはいけない臭いが立ちこめた。ネビルの失態がシェーマスの大鍋を溶かしてしまったのだ。こぼれた薬品は石畳を伝って広がり、生徒たちの靴に穴を空けていた。
「ああっ…!」
 レノーラは慌てて飛び退いたが、遅かった。新品の革靴に、拳ほどの大きな穴があいてしまった。
「バカ者!」
 スネイプが叱責して飛んできた。ネビルは薬品のできそこないを大量にかぶってしまい、腕や脚のそこら中に赤々と熟したおできを作って、痛みのあまりうめき声を上げていた。スネイプが杖を一振りすると、薬品はパッと消えてなくなった。
「おおかた、大鍋を火から下ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな?」
 ネビルは返事をするどころではなかった。おできが鼻にまで広がって、哀れな姿になっていた。
「医務室へ連れて行きなさい」
 スネイプはシェーマスに荒々しく言いつけた。シェーマスは泣きじゃくるネビルに連れ添って、大惨事の地下牢を後にした。それからスネイプはレノーラとは反対隣で作業していたハリーに言いがかりをつけはじめた。
「ポッター。針を入れてはいけないとなぜ言わなかった?彼が間違えば、自分の方がよく見えると考えたな。グリフィンドールはもう一点減点」
 ハリーはすぐさま言い返そうと口を開きかけたが、ロンが大鍋の陰で小突いて止めた。
「やめたほうがいい。罰則を与える口実ができるだけだよ」

 一時間後、悪夢のような「魔法薬学」の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。グリフィンドール生は救われたような気持ちで片付けを始めたが、来週もまたスネイプに会わなければならないと思うと、あまり晴れやかな気分にはなれなかった。
「あらレノーラ」
 レノーラが干イラクサの残りを返していると、角ナメクジの瓶を手にしたコーディリアがにこやかに話しかけてきた。後ろにはハーモニー・ケンドールとパンジー・パーキンソンが控えている。スリザリン生が笑顔で話しかけてきてくれた!——レノーラはうれしくなり、顔をほころばせた。……が。
「素敵な革靴ね。オープントゥ風かしら?」
 レノーラは一瞬呆けてしまった。ハーモニーとパンジーがクスクス笑っている。
「あ…これ、ロンドンで……あ、穴が空く前は、もっとかわいかったのよ」
「そう」コーディリアが浅く頷いた。「で、そこどいてくれる?つっかえてるの」
 レノーラは完全に打ちのめされ、ふらつくように横へどいた。かつて、これほどみじめな気分を味わったことがあっただろうか。言い返してやろうにも、薬品棚のすぐ側でスネイプが監視しているし、何よりコーディリアには非の打ち所がなかった。
「気にすることないわよ」
 魂が抜けたようにふらふらと席に戻ると、ラベンダー・ブラウンが肩を叩いて慰めてきた。
「あの子、『女王様』だもの。誰にでもあんな態度なのよ。スリザリンの子たちにもね」
 レノーラはパシリとラベンダーの手をはらいのけた。
「私、あなたなんかに慰められたくないわ」
 ラベンダーは悲しそうに眉を下げ、それ以上は何も言ってこなかった。レノーラはフンと鼻を鳴らし、教科書の束を抱えて、悪臭の残る地下牢を飛び出した。

 昨日までは確かに「スリザリンに入りたい」と渇望していたはずなのに、今はどうしてもそんな風には考えられなかった。スネイプ、マルフォイ、コーディリア……双子の言う通り、『高慢ちきの巣窟』だ。だからといって、半純血がうじゃうじゃしているグリフィンドールに馴染みたいとも思えず、レノーラはただただ、くだらないことで言い合う幼稚な両親と、仕事のへたくそな屋敷しもべ妖精に会いたくてたまらなかった。



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2011年09月19日
あまり出張る予定はないですが、テイラーはオリキャラです。
今のところ、オリキャラは両親、執事、テイラーのみ。
その他のキャラクターはだいたい『バフィー』の登場人物です。